健康増進法に定める日本人の食事摂取基準(2020)改定に伴うセミナー開催報告
日時:令和元年 12月15日(日) 10:45~12:40
場所:ホテルマイステイズ松山
参加人数:130名
【講義内容等】
1.実務研修(講義)(10:50~12:10)
「日本人の食事摂取基準(2020)の理解と
糖尿病診療ガイドライン2019の活用」
講師:京都大学医学部附属病院疾患栄養治療部
副部長 幣 憲一郎 先生
・「日本人の食事摂取基準」(以下、食事摂取基準)は健康増進法(平成14年法律大03号)に基づき、国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギーおよび栄養素の量の基準を厚生労働大臣が定めるもので、5年ごとに改定されている。
・食事摂取基準は、国や地域の計画および評価の基礎資料として活用されるとともに、医療・介護施設、事業所給食等における栄養・食事管理、栄養指導、学校給食実施基準、食品表示基準等、関係省庁の基準策定に活用されており、国の栄養政策の基盤となるもの。
・食事摂取基準(2020年版)の策定方針は、栄養政策を取り巻く社会情勢を踏まえ、①高齢化の更なる進展(2025年問題とその先の社会)への対応、②根拠に基づく政策立案の推進、③健康・栄養に関する国際的取組をもとに改定された。
・食事摂取基準(2020年版)については、栄養に関連した身体・代謝機能の低下回避の視点から、健康の保持・増進・生活習慣病の発症予防および重症化予防に加えて、高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて政策を行った。これらの個人および地域の栄養課題の解決に向けて、食事摂取基準(2020年版)が管理栄養士・栄養士・医師等保健医療関係者の方々に、食事の評価から始まるPDCAサイクルに基づいて適切に活用する。
・単なる数値の変更ではなく、栄養政策の質の向上にも関わる重要な側面を担っている。
・食事摂取基準の対象は健康な個人および健康な物とし、おおむね自立した日常生活を営んでいる者を中心とした集団。疾患を有していたり、疾患に関する高いリスクを有していたりする個人および集団に対しては、その疾患に関連する治療ガイドライン等の栄養管理方針を用いることになる。(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病等)
・生活習慣病の重症化予防及びフレイル予防を目的とする場合は、発症予防を目的とした量(目標量)とは区別して示す。
・時を同じくして糖尿病診療ガイドライン2019が発刊され、食事療法の項目は特に大きな改定がなされた。すなわち、日本における高齢化は、糖尿病患者にも同様の影響を与え、高齢者糖尿病患者への食事療法では、単なる血糖コントロールのみをめざした栄養指導では問題があり、特にサルコペニア・フレイルに関連する「低栄養」への対応が求められている。両者を上手く関連付け、医療・介護施設、事業所給食等、関係省庁の基準政策に活用をしてもらいたいと考える。
2.実務研修(講義)(12:10~12:40)
「日本の栄養活動の特徴とは
国連の“栄養に関する行動の10年”の真中で」
講師:女子栄養大学栄養学部(食生態学研究室)
教授 武見 ゆかり 先生
・“栄養に関する行動の10年”とは、飢餓を撲滅し、すべての形の栄養不良(低栄養、微量栄養素欠乏症、過体重・肥満などDouble burden of malnutrition)をなくし、すべての年代において、食事関連のNCDs(非感染性疾患)を減らすことをめざす。
・主要な目標は、ICN2(第2回国際栄養会議)の枠組みの下、food securityと栄養改善のための、栄養への投資と栄養政策・施策の実施。国、組織などの連携と協働の強化を図る。
・2020年、日本は人々の健康の基盤となる栄養分野の取組を促進するため、東京で栄養サミットを開催することとなる。背景・経緯として、①栄養改善に向けた近時の国際的取組(2020年は国際目標の中間評価を行う重要な年)、②オリンピック・パラリンピック栄養プロセス、③ユニバーサル・ヘルス・カバレッチ(UHC)と栄養改善があげられる。
・様々な疾患や問題行動に関して、高いリスクを持った人へ、リスクを減らすように支援していくことをハイリスクアプローチというが、高いリスクを持った人と限定せずに、ある団体などのリスクを全体的に下げるために行っていく支援をポピュレーションアプローチという。
・食環境整備は、集団全体を対象としたポピュレーションアプローチである。
・ニューヨーク市のNCDs予防対策として2008年、飲食店におけるカロリー表示の義務化を図ったが、ランチタイム購入品目の1食当りエネルギー量に変化は見られなかった。
・この結果を受け、情報だけでなく、健康寿命延伸に役立つ食物・食事の提供を重視することとし、アメリカ栄養士会はTotal Diet Approachの推奨を公式見解として表明した。
・日本学術団体でもポピュレーションアプローチ(食環境整備)を推進し、どこでも、誰でも、栄養バランスの良い食事が選べる社会をめざし「健康な食事・食環境」コンソーシアムが認定制度(スマートミール)を設けた。最終ゴールは国民の健康寿命の延伸実現への寄与である。